井上 みなさんの前でプレゼンテーションをする際は、まず「喫煙には害があります」からスタートします。「したがって、たばこの健康被害をなくすためには、吸っていない人は吸い始めない。そして、吸っている人は禁煙をする。これがベストチョイスです」とお話しするんです。
村尾 思い切った発言ですね(笑)。でも、自ら問題点を提示できるかどうか、そういうところを消費者は敏感に感じとりますから。「ベストは禁煙」という人が、どんなたばこを我々にリコメンドするのか、興味がわいてきます。
井上 WHOの試算では、2025年の時点でも、世界ではまだ10億人以上の人たちがたばこを吸い続けているんです。その人たちに向けて、ベターチョイスとして、「紙巻たばこ」から「加熱式たばこ」に切替えてみてはいかがですかと提唱しています。
村尾 ハーム・リダクション、害を低減するという考え方ですね。
井上 ベストチョイスは禁煙です。だけど、それでも吸い続けたい方は、「加熱式たばこ」という、より良い選択肢を採用することで、健康への害が低減される可能性があります。
村尾 世の中にそうそうベストなことというのはありませんからね。より害が少ないという見地から、ちゃんと言ってくれるほうが信頼できる。ただ、その場合も、科学的な根拠や統計学的な数値で議論しなければいけません。
井上 誤解されている方が多いのですが、呼吸器系、循環器系のいわゆるたばこ関連疾患の主な原因というのは、ニコチンではないんです。問題は「燃焼」があるか、ないか。たばこに火をつけると、だいたい800度くらいでたばこ葉と巻いている紙の両方が燃えて煙が発生し、その中に多くの有害性成分が含まれています。それを吸うと健康への害が生じるわけです。弊社の「加熱式たばこ」では、マイクロチップを内蔵した温度センサーで、約350度以上に上がると加熱を止めるように設計されています。つまり「燃焼」が起こらないようにしているわけです。そこから出てくるのは、煙ではなく、主に水とグリセリンとニコチンから成るたばこベイパー(蒸気)なんです。この蒸気に含まれる有害性成分量を、紙巻たばこの煙に含まれる有害性成分量と比較したところ、平均95パーセント低減されていることが検証されました。
村尾 なるほど。
井上 じゃあ、この蒸気を吸い込んだら、どうなるか。「曝露」と呼ばれるものですが、蒸気を吸い込んだときに、体内で有害性成分にどれだけ曝露しているか、つまり体内でどれくらい吸収されるかという検証もやって、エビデンスを出しました。その結果はFDA(アメリカ食品医薬品局)にも共有しています。昨年7月、弊社の加熱式たばこ製品(IQOS)は、FDAから「曝露低減たばこ製品」としての販売が許可されました。「加熱式たばこ」としては第1号です。
井上 弊社の場合、たばこがもたらす健康への害を減らす研究開発を、20年近く前にスタートしました。スイスの研究所に世界中から様々な分野の研究者を集めて、独自の研究検証結果を公開してきました。昨年4月から施行された改正健康増進法では、初めて「紙巻たばこ」と「加熱式たばこ」が区別されたんです。これも、いままでいろいろな検証結果のエビデンスを提出してきた成果だと思っています。
村尾 ダーウィンの進化論じゃないですが、どんな業界もまわりの環境の変化に応じて進化していかなければいけない。そうでなければ持続していくことはできません。
井上 弊社もサステナビリティ戦略を前面に打ち出しています。特にSDGsの3番目の目標、グッド・ヘルス・アンド・ウェルビーイングです。最終的には「煙のない社会」を実現して、公衆衛生に貢献するというのが我々のミッションです。SDGsに関連して、経済学者のマイケル・ポーター氏が提唱しているCSVという考え方があります。新しい社会的価値の創造です。「加熱式たばこ」の場合、たばこの不始末による火災の心配がありません。つまり「加熱式たばこ」は健康問題だけでなく、火災予防の観点からも新しいソーシャル・バリューを生み出すと考えています。実際に、岐阜の白川郷では、世界遺産である合掌造りの建物を火災から守るために、合掌造り集落内では火をつける紙巻たばこのない環境づくりを進めており、「加熱式たばこ」専用エリアを代わりに設けています。
村尾 日本では、ついつい100パーセント白か黒かという議論になりがちですが、その中間地点、70から80あたりを目指して、ベターチョイスを提唱する御社の姿勢は、大変現実的だと思います。異なる嗜好の人たちが大勢いるなかで、よりみんなが妥協できるところで解を求めていくという、社会の意思決定の仕方が大切ですね。
提供/ フィリップ モリス ジャパン