地道な地ならしがスムーズな導入へと繋がった
日本を代表する「帝国ホテル」は、お客様に対する環境面の配慮から、たばこの煙のにおいを減らすための取組みを進めてきた。そして辿り着いた答えが、加熱式たばこの全社的な普及と、それに伴う喫煙環境の改善だった。いかにこの取組みを推進できたのか。成功の鍵について伺った。
たばこのにおいを減らすために
ホスピタリティを何よりも大切にする同ホテルにとって、たばこのにおい問題は早急に解決すべき最重要課題の一つ。改正健康増進法の全面施行に合わせて、加熱式たばこ専用室の設置を目指した。
帝国ホテルでは、改正健康増進法の施行を機に、館内の全レストランやバー・ラウンジ、宴会場などを全面禁煙とし、同時に従業員の喫煙環境も大幅な改善を図った。取組みの始まりは、今から3年以上前にさかのぼる。もともと意識の高い従業員が多く、喫煙環境に対してさらなる配慮が必要なのではないかという指摘があがっていた。ホスピタリティを何より大切にする同ホテルにとって、たばこのにおいの問題は、早急に解決すべき最重要課題の一つだったのだ。
「喫煙時には上着を脱ぐなどの取組みはしてきましたが、やはりそれだけでは足りません。もちろん全面禁煙という選択肢もあったのですが、それでは喫煙者が行き場を失ってしまいます。吸う人にとっても、吸わない人にとっても、納得のいく形はないか。バランスを考えながら模索し、辿り着いた答えが、加熱式たばこでした。そこで改正健康増進法の全面施行に合わせ、加熱式たばこ専用室の設置を目指したというわけです」(人事部長・小山田淳次さん)
いかに紙巻たばこから加熱式たばこへ切替えるか
紙巻たばこユーザーに加熱式たばこのデモンストレーションを行ったところ、加熱式たばこのユーザーが増加。加熱式たばこ専用室の設置が歓迎されるようになった。
加熱式たばこ専用室を設置したところで、利用者が少なければ意味はない。次なる課題は、紙巻たばこユーザーに加熱式たばこへの切替えを促すことだった。その点について人事部労務課厚生サービスセンターマネジャーの小俣国男さんは、「地道な普及活動が功を奏した」と語る。
「フィリップモリスさんのご協力のもと、福利厚生室や研修室、宴会場などを使って、加熱式たばこのデモンストレーションを都合4回実施しました。事前に社内のイントラや掲示板で告知し、集まってくれた皆さんに試し吸いしてもらったところ、『なるほど、こういう味なんだ!』『今度はいつ来るの?』などなど、とても反響が大きかったです。また、14日間のレンタルプログラムも活用。実際、試してから購入する人も多く、ユーザー拡大の一助になったと思います。さらに普段から販売会やPR活動なども地道に行っていただき、この1年の間で購入者の数も飛躍的に伸びました」
加熱式たばこ専用室の設置は、ユーザーが増えてきたことで、むしろ歓迎された。結果的にこうした地道な地ならしが、スムーズな切替えにつながったと言えるだろう。
加熱式たばこ専用室の設置へ
加熱式たばこ専用室に切替えたところ、空気が見違えるほど変わり、臭気も完全に消えた。たばこを吸わない人でも休憩できるほどのスペースとなった。
建物内に数多く点在している従業員専用の喫煙所のうち、利用者が一番多く利用する地下の喫煙所を最初に加熱式たばこ専用室へ切替えた。これは多くの喫煙者にとって驚きだったという。しかしこうした思い切った取組みも、環境を劇的に改善させたことにより、すぐに受け入れられた。手応えを実感できたことで、次に、3階にある2番目に広い休憩所の喫煙所を加熱式たばこユーザーが快適に使用できる環境へ整えた。
「地下の喫煙所も3階の喫煙所も今までは常に煙が充満していましたが、リニューアル後は空気が見違えるほど変わり、臭気も完全に消えました。それこそ吸わない方でも休憩できるほどです。実際地下のほうには挽きたてコーヒーの自販機を新たに設置するなど、憩いの場としても賑わっていますし、3階のほうはガラス窓があって外が見えます。今どき景色を見ながらたばこが吸える環境など、あまりないのではないでしょうか」(小俣さん)
喫煙環境改善の成果と反響
昨年の段階で喫煙率は3割まで減り、さらに紙巻たばこから加熱式たばこへの切替えも順調に進んでいる。ホスピタリティを何より大切にする従業員たちが、加熱式たばこを選択し、今では満足を得ながら仕事に取組めるようになった。
「私が感じる一番の成果は、従業員の意識改革の一助になったということです。弊社はこれまで比較的、喫煙者に対する理解があったため、従業員の多くは自分の職場で吸える場所が減るなどとは考えてもいなかったでしょう。今回の取組みで時代は変わっているんだということを改めて実感したと思いますし、また自分自身の健康について見直すきっかけにもなったと思います」(小山田さん)
帝国ホテルでは、従業員同士が感謝の気持ちを伝えるための『サンクスカード』を導入している。例えば、「〇〇部署の〇〇さんがこういう協力をしてくれた」といった内容が、部署宛や本人宛に届くという仕組みだ。喫煙環境改善の取組み後、人事部には数多くの『サンクスカード』が届いた。送り主が喫煙者か非喫煙者かはわからないが、ピンク色のカードには「たばこのにおいが気にならなくなりました」「素晴らしい部屋を作ってくれてありがとう」といった言葉が綴られ、小山田さんと小俣さんも「感謝の言葉をいただいて何よりです。やってよかった」と口を揃える。
今の環境を維持することが次なる課題
今後は、レストランや宴会場で働くサービススタッフが仕事の合間に気軽に立ち寄れるような小規模な加熱式たばこ専用室を増やすことも視野に入れているというが、一方で小俣さんは、「理想的な環境が作れたと自負していますし、そういう意味ではやりきった感もあります」ときっぱり。直近で新たなことに取組むよりも、この環境をいかに維持していけるかのほうが重要だと語った。
また、ご自身が非喫煙者である小山田さんは、「吸わない人にとって良い環境を維持するのは、当然のこと」と前置きしつつ、「逆に喫煙者にとっても働きやすい環境を提供するのが、我々の役目です。今の状態を維持しつつ、双方にとってより良い環境を考えていきたい」と思いを述べた。吸う人にとっても、吸わない人にとっても、居心地の良い環境を——。帝国ホテルの取組みは、すべての従業員を幸せにする理想的な事例と言えるだろう。株式会社帝国ホテル
所在地 | 東京都千代田区内幸町1-1-1 |
グループホテル | 帝国ホテル東京(直営)、帝国ホテル大阪(直営)、上高地帝国ホテル(直営)、ザ・クレストホテル柏(直営) |
創立年月日 | 1887年12月14日 |
従業員数 | 2,047名 |
従業員用喫煙所 | 大型2ヵ所、小型11ヵ所 |