データが証明するたばこの煙のにおいと空気環境の大幅改善
昨年、創業80周年を迎えた自動車部品の大手メーカー、マレリ株式会社。15か国に80拠点を擁し、グローバルを含めた社員数は2万2,000人を数える。同社はこれまで、喫煙可能時間や禁煙デーを設定するなど喫煙対策を進めてきた。本社では喫煙所を縮小し、そのうちの2か所を加熱式たばこの専用室に変更した結果、長年の課題の一つが解決したという。非喫煙者との共生を可能にした事例を紹介する。
煙やにおいなど非喫煙者の不満に対応
非喫煙者のみならず加熱式たばこユーザーからも喫煙所の煙やにおいに対する不満が聞こえてきていた
マレリ株式会社は1938年創業。3年前には売上高1兆円を超えた。グローバル組織活性化本部ジェネラルサポート部部長の広石敏数さんは国内の総務および安全・衛生に携わっているが、国内だけでも擁する拠点は10か所以上、約8000人が勤務している。
広石さんが総務に配属された5年前、喫煙問題への取組みはまだ緒に就いていなかった。社員の喫煙率は高めで、世の中の流れに遅れていると感じた広石さんは、禁煙デーや喫煙可能時間の設定など、数々の取組みを開始する。
「毎年秋に社員の健康診断を行っており、問診票のアンケートで喫煙者の数は把握しています。産業医や看護師とも連携して禁煙応援プログラムに取組んできました」
時はちょうど、加熱式たばこが話題になり始めた頃。一度は社内で推奨を検討したが、そのときは「あくまで禁煙を推奨する立場であり容認できない」と結論付けた。
禁煙に挙手した社員は最後まで成し遂げられるよう、看護師がメールや面談でフォローする。また、禁煙外来の受診はいささかハードルが高いため、2018年度からはスマホやタブレットで医師に相談でき、薬も郵送されるリモートシステムを導入。5万5000円かかる費用のうち5万円を健保組合が負担し、チャレンジしやすい環境を整えた。こうした仕組みに支えられ、禁煙プログラムの参加者は着実に増えている。共有スペースのにおいが専用室設置で軽減
禁煙デーや喫煙可能時間の設定、禁煙プログラムの実施に加え、喫煙所の一部を加熱式専用に変更
紙巻たばこの煙やにおいは、非喫煙者にとって不快なものだ。拠点によっては執務室の隣が喫煙所というケースもあり、分煙を強化する対策が急がれていた。課題を抱えていたのは本社ビルも同じだ。禁煙を促すために喫煙所を15か所から9か所に縮小し、禁煙デーを設定、1日の中で喫煙可能な時間も指定したが、ビル内の2か所の喫煙所の前がトイレへの動線だったことから誰もが喫煙所の前を通らねばならず、非喫煙者の苦情が数年にわたって上がっていたのだ。この課題を解決したのが加熱式たばこだ。
「産業医から、あくまで本筋は禁煙推奨であるものの、加熱式たばこは非喫煙者に対する煙やにおいの影響を軽減する手段として有効、という見解を得ました。そこで毎年恒例のアンケートの際、『たばこを吸う』『吸わない』だけでなく、『加熱式たばこ』『紙巻たばこ』『併用』など、より細かくヒアリングしてみたのです。すると半数以上が加熱式たばこを利用している実態がわかりました。この結果を踏まえて産業医や看護師とともに検討を重ね、トイレ前の喫煙所2か所を加熱式たばこ専用にすることになりました」
アンケートでも、加熱式たばこ利用者からの「喫煙所を分けてほしい」と望む声は40%を超えていた。理由としては、紙巻たばこのにおいが服や髪に付く、混雑していて紙巻たばこの煙が気になる、火災の危険性がある、などだ。
手応えはすぐに感じられた。加熱式たばこ専用に移行したフロアはトイレへ至る廊下から煙がなくなり、においが少なくなっただけでなく、たばこ休憩後に席に戻ってくる同僚がたばこの煙くさい、という声も消えたのだ。非喫煙者からの評価だけではない。加熱式たばこの使用者からも、専用室は快適だと好評だった。こうした成果は、数値でより明らかになった。
「加熱式たばこ専用室にする前と後で数値を比べると、室内も専用室前の廊下も、空気中の浮遊粉じん量や臭気などが著しく低減しています(図表)。取組みとしては期待以上の効果でした」
本社で27%だった喫煙率も、少しずつ下がってきている。喫煙所の縮小と専用室の誕生で、紙巻たばこを吸うための移動距離が長くなり、それをきっかけに禁煙する社員が出始めた。禁煙デーは設定した当初の年に一度から毎月の定例行事となり、喫煙可能時間の徹底もはかれてきた。
「当社では喫煙できる時間を決めていて、3回破るとレッドカードとして部署名を公表、現場の喫煙場所を一時的に閉鎖します。所属部署やほかの喫煙者に迷惑を掛けてしまうことが、抑止力になっているようですね。実際にレッドカードとなったのは3年間で2回だけです」
地域との共生を考えベストの選択を探す
加熱式たばこ専用室も廊下も、空気中の浮遊粉じん量や臭気が著しく低下。社内でも好評を得ている
一定の成果は出た。ではこの先はどうするか。社内を全面禁煙にするべきだという意見は根強いし、それを決断してしまうことはたやすい。しかし広石さんは、そうした決断の影響まで考えなければいけない立場にある。
「全社禁煙に踏み切った他企業の話を聞くと、社内で吸えなくなった喫煙者が外に吸いに出るようになり、近隣住民に迷惑を掛けているケースもあるようです。ここは住宅街の中にありますし、通学路が敷地に近接しています。自分たちさえよければいいというわけにはいきません」
国内各拠点の健康担当者とは3か月に一度、定例会を実施し、ベストプラクティスを共有する。喫煙は重要なテーマの1つだが、喫煙所や禁煙サポートの在り方はいまだ統一されていない。まずは拠点ごとに異なる状況を把握し、大きな場所から加熱式たばこ専用室を設けることを検討中だ。現時点での落としどころは、喫煙者と非喫煙者が共生できる環境づくり。当然その大前提には地域との共生がある。
マレリ株式会社
本社 | 埼玉県さいたま市北区日進町2-1917 |
代表者 | 代表取締役社長 ベダ・ボルゼニウス |
従業員数 | 2万2,678人(2018年3月31日現在) |
事業内容 | 自動車部品(空調、電子・電装、内装、熱交換、排気、電気自動車用製品等)の開発、製造、販売 |
ホームページ |